貴志祐介「硝子のハンマー」を読んだ。

この人の文章は非常に読みやすく、トリックを作りこみながら、人間の暗い部分も適度に描くところが好きである。
多少気持ちの描きこみが私とリンクしなくて、殺人の動機について、色々言葉では納得がいくふうに書いてあっても今イチ気持ちの上で納得出来なかったりすることがあるのだが、それは私が、ミステリを読む時心理的な部分に不必要に注目して読んでしまったり、生まれてこのかた人を「永遠に私の前から消えろ!」と嫌悪したことはあっても、「殺してやる」と憎悪した体験がないからかもしれない。
でもまあ今回の彼の動機はある意味憎悪と怒りではあるかもしれないけど、対象が異なっているので、それは関係ないかもしれない。
それに、殺人の動機よりも、例の泥棒が「殺人だけは良くない」という台詞を吐くところのほうが安易な気がしたし。
まあ実際のところ、そんなことは些細なことで問題でないのです。

前回、映画化してから、何故か映画を見ずに原作だけ読んだ「青の炎」のラスト2ページに恐ろしく納得しながら身震いさせられた記憶があるので、今回もあれを期待していたらそれは多少間違ってていたことがわかった。
「彼」の人生を追体験させられる、あそこが今回のハイライトなのでしょう。

探偵役の弁護士・泥棒(?)のカップルは可も無く不可も無く。
トリックの作りこみは多少強引なところはあっても、さすが。
頭の良い男たちが活躍するところは好きです。「なんでそんなバカなことをするんだ!」とじれったくならないので良いね。

先にも書いたけど、文章が非常に私の波長に合い、読みやすくあっという間に読めるので、これでもっと気持ちに同調できたら気持ち良いのに。
そして、あの「青の炎」の鮮やかさをもう一度。

といいつつ好きな作家です。